日本の森、モリのニッポン紀行

2020年12月6日からnote版「日本の森、モリのニッポン紀行」(https://note.com/samsil_life)に引っ越しました。

【出雲國】嶋根郡・法吉神社。

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法吉神社を訪ねたのは五月九日の朝のこと。


松江駅近くの逗留先のマンションを出て大橋川を渡って北上。
松江城のお堀を渡って北側の塩見縄手を走る。
武家屋敷が軒を連ねる松江では鉄板の観光名所である。
小泉八雲が松江滞在時に住んだ旧居前で記念に写真を撮った。
その横を制服姿の男女が自転車に乗って走っていき、通勤客を乗せたバスも走り過ぎていった。

松江に来るひと月前から仕事を休んでいたので、自分から「通勤」という概念が抜けかけていた。
まさに神社巡りが日常になろうとしてた時期、僕にとっては特別な時間が始まろうとしていたときだったが、世間には普通の時間が普通に流れている。
当たり前のことだけどそれを松江城の堀端で思い出した。

松江城から黒田の交差点を右手に曲がり法吉神社が鎮座する法吉町まで走って行く途中、対向車線の車からもバスからも多くの視線が我がFATBIKEに注がれた気がした。
松江に到着した二日前には子どもや学生たちから驚きの声の洗礼を受けている。
この後、松江で暮らしながら、神社を巡りながら出会った多くの人々からFATBIKEについての質問を受けた。

「これ自転車なの?」
「重そうだけど、ちゃんと走るの?」
「バッテリーは?」
「値段はいくらくらいする?」

なかには自転車として認識していない方もいらっしゃったが、これもコミュニケーションと自分の知っている限りの説明を雑談を交えてお伝えするようにした。
松江から帰宅してすでに二ヶ月を経過した。
僕の巻いたFATBIKEの種がもしかしたらいまごろ松江で芽吹いてFATBIKEに乗るひとがいたりして。
そうであったら嬉しい。

法吉神社のある辺りは小高い丘が連なっており、すぐ南側に須賀神社も鎮座して神の山の雰囲気を漂わせている。
法吉神社の鳥居をくぐり石段を上がって境内へ。
拝殿まで70歩、まずは参拝。
山を削って整えられたようで、とくに向かって右側は刃物で切り落としたように切り立っている。 
石段を上がりきった場所はとても眺めがよい。
東側にそびえる山までは小さい家々が豆粒のようにびっしりと隙間なく建っている。
法吉神社の旧社地はそのさらに北側の鶯谷にある。

出雲国風土記」には嶋根郡法吉の郷についてこう説明している。

「神魂命の御子、宇武賀比売命、法吉鳥と化りて飛び渡り、此処に静まり坐しき。故、法吉という」

ここに登場する宇武賀比売命とは加賀神社祭神である枳佐加比売命とともに兄弟神に殺された大己貴命をよみがえらせた貝の神である。
宇武賀比は蛤を意味する。

その宇武賀比命、貝なのに出雲神話ではなぜか鳥となった。
降り立ったのは旧社地とされる鶯谷
社名の元になった法吉鳥とはウグイスのことである。
法吉は「ホッキ」と読む。
そう、ウグイスの鳴き声の「ホーホケキョ」から来ているのだ。
でもなにゆえにウグイスだったのだろう。
風土記にもその辺りについては触れられていないので、唐突感がなきにしもあらずだ。

蛤とウグイス...何か共通点ってありましたっけ?
ちなみに法吉神社境内でも鳥の鳴き声は聞こえたが、ウグイスではなかった。

写真は島根県松江市

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