日本の森、モリのニッポン紀行

2020年12月6日からnote版「日本の森、モリのニッポン紀行」(https://note.com/samsil_life)に引っ越しました。

【出雲國】嶋根郡・門江神社。

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出雲国式内社訪問記をほぼ毎日書いているが、さすがにひと月を神社巡りに明け暮れていたのでネタに尽きることはない。

ところで書く順番について、これまでの国(伊勢国とか尾張国とかの国)であれば自分が訪ねた順に書いていたけど、出雲国に関しては訪問できる神社についてあらかた回ってから書き始めたので、「延喜式」に掲載されている郡と神社の順に書くことが可能だった。

門江神社は松江を去る前日に訪ねた神社の跡地、つまり旧社地である。
式内社調査報告」には「八束郡誌」を引いて「東川津門戸谷 明治四十年合祀」と嵩山の布自伎美神社へ合祀されたと説明している。
明治四十年という年代からすれば愚策「神社合祀令」によるものであることは間違いなさそうだ。
式内社調査報告」では門江神社にページを割いているものの、扱いとしてはあくまでも旧社地。
だから社がないのに行く意味があるのだろうかという葛藤があった。

松江での生活を終える前日の六月六日は天候にも恵まれ、サイクリング日和だった。
最後の最後まで旧社地であるという理由から門江神社をどうしようか迷っていた。
逗留先から近ければ行くのだが、これが案外遠い。
再度、嵩山に登る必要はないけど神社があった場所は山の麓である。
面倒くさいという気持ちがなかったわけではない。
結局、散々考えた末、行くことにした。
行かなきゃ後悔するかもしれないし、後悔しても松江を去ったあとではなかなか来られない場所だから。

松江駅近くの逗留先を北上し、島根大学から国道431号線を東へ。
松江刑務所の前をさらに進み、ひと月前に登った嵩山の麓を北に向かった。
スマホでグーグルマップを立ち上げると現在地は門江神社の跡地があるとされる上東川津町を指している。
神社の所在地である「東川津門戸谷」(「八束郡誌」)へは「西宗寺のところから東北にややあと返るやうに進めば門戸谷に至る」と「式内社調査報告」調査者の原宏氏は述べている。

現場に着き目印の西宗寺は見つかったが、そこからどう行けばいいのか、分かりにくい説明を頭のなかで反芻しながら現地の風景と重ね合わせようとするも、土地勘がないせいかお手上げ状態である。
こうなったらだれかに尋ねる方が手取り早いが、周囲にひとの気配がない。
洗濯物が干してある農家らしいお宅で声をかけてみるが、反応はなかった。
ここまで来ておきながら引き下がるわけにはいかない。
どうしようもなければ諦めるしかないか...

FATBIKEを置いて辺りを見渡すと、離れた場所から水が流れる音がした。
屋外の水道前にひとの姿があったので、すかさず神社の場所について尋ねた。
バイザーの上からタオルを巻いた完全装備のおばさんが自宅で飼っている牛に水を与えようとしていた。

「ここの近くに神社があったことは聞いているけど、その神社も嵩山の上に合祀したって。私ではよく分からないから」

そっけない返事だった。
でも諦めるわけにいかないから、スマホに保存しておいた「式内者調査報告」の写真を見せてなんとか場所を聞き出そうとした。

「隣の家が『宮ノ前』だからこっちかもしれないねぇ」

熱意が伝わったのか、おばさんは作業の手を休めて、自分の家の畑だからいいよ、と畑のなかを歩いて共用の通路へ案内してくれた。

「ここです、ここです」

「旧社地を望む」と写真説明にある旧社地へ至る通路が目の前にあったので興奮気味に伝えた。
畑の横を通るその通路はだれでも通っていい道というから、参道の名残なのだろう。

おばさんの案内でそのまま直進、ヤブのなかを入って行った。
草がぼうぼうと茂り竹も伸び放題だが、道の形跡らしきものはある。
さらに上がると平らな場所に出た。
苔と草に覆われた石垣がかつての境内を彷彿とさせる。
背の高い竹に覆われていて日差しが届かないこの場所には椎茸の原木がいくつか置かれているだけで神社の匂いはなく、あくまで旧社地でしかなかった。

「私、ここに来て四十年近くになるけど、この場所に来るのは初めて」

そういっておばさんは笑っていた。

改めて「式内社調査報告」を読み返すと、門江神社として考えられたのは当地にあった「国石大明神」、祭神は不詳だが国常立命する説もある。
社地は全体で三段になっており、上段の平地に本殿、御拝などがあり、中段に拝殿、下段は平地になっていた(「嶋根郡上川津村式内門江神社境内ノ図」)。

数枚写真を撮り、来た道を引き返すと作業に戻っていたおばさんにお礼をいった。
やっぱり来てよかった。

写真は島根県松江市

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