日本の森、モリのニッポン紀行

2020年12月6日からnote版「日本の森、モリのニッポン紀行」(https://note.com/samsil_life)に引っ越しました。

【遠江國】周智郡・芽原川内神社。

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豊橋から飯田線に揺られて三時間。
到着した向市場駅で降りたのは僕ひとりだった。
「お気をつけて」
電車が止まると親切な車掌さんがドアの開閉ボタンを押して見送ってくれた。
駅に着くと今度は駅の向かい側の家のおじさんが出てきた。

「山住(神社)に行くんかね。ずっと登りだよ」

輪行して持ってきたFATBIKEを組み立てながら雑談を交えて当日のルートを説明する。
遠江国周知郡、芽原川内神社の論社のひとつである山住神社。
駅には近隣の観光スポットとしてその名が出ていた。
標高1100m、これまでも式内社を訪ねる旅で山に登ることはあったけど1000m超の山は初めてだ。

幸いにも山住神社までの道は舗装路である。
所々FATBIKEに乗れるかもしれないから案外早く着けるかも。
淡い期待を抱き、おじさんに「行ってきます」と挨拶して出発した。

ほんの少しだけ坂を下り、川を渡ると徐々に道が上り基調になってきた。
緩い坂はサドルにまたがり、斜度がきつくなると立ち漕ぎでのペダリングだ。
変速機がついていないことを忘れたわけではないけど、行けるところまで行きたいという気持ちがあった。

だけど出発後三十分もたたずにその気持ちも萎えてしまい下車。
そこからFATBIKEを押して歩くこと二時間。
時折強い日差しが自転車を押す背中に当たり猛烈に暑かった。
頭から顔、首、背中、下半身まで全身に汗がしたたる。
名古屋ではまだ聞かれないツクツクボウシが晩夏を告げていた。
山はすでに夏の終わり、というか秋なのだ。

それに汗だくの自分を待っていたかのように山から水が流れ出る場所があった。
成分表示のおまけまでついている。
ミネラル分が豊富な硬水をコップに二杯いただき、持参したボトルにも詰めた。
そして帽子とメガネを取り、道路際の水が流れる場所で頭から水をかぶった。
苦労した分、山の恵みに励まされた。

午後一時半過ぎ、山住神社の鳥居前に到着。
鳥居をくぐり拝殿まで138歩、まずは参拝。
とにかくスギが多く、境内の外縁を囲むのもスギならば、境内の中心にありその存在に圧倒するスギは静岡県の指定天然記念物。
二本とも樹高は40m以上。
この辺りのスギは有名で「山住スギ」として首都圏でも知られた存在でもあったという。

式内社調査報告」によれば主祭神大山祇命、つまり山の神さまである。
参拝後、境内を歩き回り、摂社にも手を合わせる。
さすがに二時間FATBIKEを押しっぱなしだったのでベンチに座ると放心状態。
しばらくメモを書くペンを取ることができなかった。

神社を参拝し、向かい側の茶屋で串に刺した里芋(芋団子)を食べながらお店のおじさんから道路状況を聞いた。

秋葉神社までの道は少し登るけどそのあとはずっと下りだから、漕がんでもええら」

その言葉を信じ浜松に向かったものの、上り下りの繰り返し。
しかも濃霧が突然大雨に変わった。
雨宿りできるところはなく全身びしょ濡れ。
さらに悪いことが重なり、遠州鉄道西鹿島駅付近で、後輪が急に重くなったと思ったら、しばらくすると動かなくなるだけでなくタイヤ自体が外れなくなるというトラブルが発生。
後輪が外れなければ輪行できない。
途方にくれたが、後輪をつけた状態で強引に輪行袋をかぶせたらなんとかJRにも載せられた。

大雨、キツイ上り坂、トラブル...
いま思い出してもその状況によく耐えたなと思った。
どんな試練でもそれなりに乗り越えられる、山住山で得た教訓である。

写真は静岡県浜松市

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