日本の森、モリのニッポン紀行

2020年12月6日からnote版「日本の森、モリのニッポン紀行」(https://note.com/samsil_life)に引っ越しました。

【出雲國】秋鹿郡・佐陀神社。

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松江に暮らしながらFATBIKEで神社を訪ねまくったひと月間。
多くの神社を参拝したものの、お守りやお札を買うことはほとんどなかった。
訪ねた先で買ってばかりいてはお金がもたないし、コレンクションで買い求めるような類いのものじゃないから神さまに失礼じゃないかと考えてである。
でもまったく買っていないわけではなく、揖夜神社では妻にお守りを、ゆいいつのお札は佐太神社で受けた。

「出雲佐太 火災水難防禦 守護」

受けるつもりではなかったけど、並べられているお札を見て、これはと思い買い求めた。
目を引いたのは文字とともに刷られた蛇の姿で、榊のような葉の上にとぐろを巻いている。

お札から話は飛ぶが、佐太神社で舞われる「佐陀神能」についての展示を隣接する鹿島民俗資料館で見学した。
演目「大社」(おそらく)の一場面を再現した展示で老人が手にしていたのはお札に描かれた蛇だった。
蛇は佐太神社の祭礼でも大きな役割があり、11月25日の「神在祭」(お忌み祭)では海に上がるウミヘビを「竜蛇さま」とし海神の使いとして崇めているという。

ウミヘビといってもピンとこず頭に浮かぶのはシマヘビやヤマカガシといった陸の蛇である。
「竜蛇さま」と呼ばれるそのウミヘビの正体はセグロウミヘビ。
ウィキペディアで調べたことをまとめると、「背中が黒く腹が黄色い。外洋に生息し、暖流に乗って日本近海までやって来る時期がちょうど出雲地方で「神在祭」が行われる時期に重なる。完全水棲種で遊泳力が強い半面、陸地に打ち上げられると身動きが取れず死んでしまうこともある。性質は凶暴で、人間を殺せるほど強力な神経毒を持っている」と、かなり怖い部類の蛇だ。
古代出雲人がセグロウミヘビの生態に熟知していたかどうかは分からないけど、陸の蛇でさえ異体ゆえ恐れられるのに、それが海から来るので余計に神々しく感じたことだろう。
出雲国の古社巡礼中にウミヘビまでを見ることはなかったが、蛇自体には何度か遭遇しているので、お札はある意味出雲らしいお札といえる。

松江の市街地から北西方向に走ると道路端に佐太神社への距離を示す看板が何度か立っていた。
出雲国風土記」には「佐太の御子の社」、「延喜式」には「佐陀神社」としてそれぞれ秋鹿郡の筆頭として記載されている佐太神社だが「延喜式」では小社の扱い。
とはいえ「鎌倉時代には杵築大社に次ぐ、というよりまさに匹敵する社領を形成していた」(「日本の神々」)といい、神階も杵築、熊野の名神大社二社に次いでいたという。
実際に佐太神社を訪れ、広々とした境内に身を置くと、名神大社クラスではと錯覚してしまう。

入口の鳥居をくぐって真正面の拝殿まで175歩。
本殿は正中殿、南殿、北殿の三棟が並んで建てられている。
山の木々の緑を背景に三つの赤茶っぽい屋根の本殿。
お互いに色彩の近さはないけど、境内の厳粛な雰囲気が自然である山と人工物である社殿を一体化させていた。

三カ所の社を参拝してから「母儀人基社」を参った。
境内端の石段を上がるとちょうど本殿の裏手辺りの高台に出る。
社とはいえ柵で囲われたなかに鎮座するのはツバキの根元に積み重ねられた磐座だった。

手を合わせて改めて出雲の豊かさを思った。
佐太神社正中殿の祭神である佐太大神は母である枳佐加比売命加賀の潜戸で産んだ神。
加賀の潜戸といえば海に面する岩に自然浸食による穴があいた神秘的な風景で知られる。
枳佐加比売命を祭神とする加賀神社は「潜戸明神」といわれていた。
つまり洞窟に対する信仰である。
そこに「竜蛇さま」の蛇神信仰、「母儀人基社」の磐座信仰といった自然に対する信仰が加わり豊かに根付いている佐太神社界隈。

なお、延喜式に記載されている日田、宇多紀、垂水の三式内社佐太神社に合祀されている。

写真は島根県松江市

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